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山口家庭裁判所 昭和51年(家イ)44号 審判

国籍 韓国

住所 山口県

申立人 金静香(仮名)

申立人 金真紀(仮名)

国籍 韓国

住所 山口県

相手方 金周浩(仮名)

主文

申立人らと相手方との間に親子関係の存在しないことを確認する。

理由

1  申立の要旨

申立人らは、主文と同旨の調停および審判を求め、その事情の要旨として、つぎのように申立てた。

(1)  申立人ら両名は、父金周浩(相手方)と母川田夕子(以下夕子という)との間に出生したものとして、それぞれ、宇部市長に出生届がなされ、かつ、相手方と同一地を国籍とした外国人登録がなされているが、これは真実に相異しており、上記両名は、相手方の子ではなく、夕子と日本人申立外川田英治との間に出生したものである。

(2)  すなわち、夕子は、昭和四三年一二月から翌四四年四月まで、防府市内で相手方と事実上の夫婦として同棲したが、同月両名の関係が気まずくなり、夕子は宇部市内の実家へ帰り、相手方は兵庫県三木市へ移り、両名は、以後再び同棲する気もなく互いに永久に別れる意思で別居し、その後現実にも(一度昭和四五年一月中旬ごろ三木市から相手方が帰つた際、夕子と会つて性関係をもつたことがあるのみで)再び、同棲はもちろんのこと、互いに住所を知らせ合うことや連結をとりあうこと等一切なかつたものである。

(3)  ところが、夕子は、昭和四五年八月二二日申立人静香を、妊娠月数一〇月、三、一〇〇グラムで分娩したが、これに先立つ同年七月二三日、夕子は、相手方を忘れることができず、生まれてくる子供のことを考え、人を介して相手方の同意を得、相手方との婚姻届を提出し、さらにその後、申立人静香を相手方の子として出生届をなし、上記同様昭和四六年九月二八日分娩した申立人真紀も相手方の子として届出をなした。

(4)  しかし、相手方はもちろん夕子も、申立人静香については、夕子と相手方に性関係のあつた前述昭和四五年一月中旬から計算して、父親は相手方でないことは充分知つており、また、相手方は、申立人真紀まで自分の子として届出られていることを知り驚いて昭和四七年三月一〇日離婚の届をなしたもので、申立人真紀についてもなんらの親子関係もない。

(5)  夕子は、相手方と別れて約四か月後の昭和四四年八月ごろから申立外川田英治と今日にいたるまで継続して性関係をもち、上記申立外人とは昭和四九年八月二三日婚姻届をなしており、上記申立外人は、申立人ら両名を自己の子として認知するつもりである。よつて、申立人らの戸籍を真実に合わせ川田英治・同夕子の戸籍に入れるため本申立におよんだものである。

2  裁判管轄権

申立人両名は表見上日本の国籍を有せず、また相手方の国籍も韓国であるが、一件記録によれば、両当事者はいずれも、日本国内において出生しかつ日本国内に住居を有し、さらに相手方は日本に永住する意思を有していること(申立人らの永住の意思については今後日本人の父母の戸籍に入れたいと申立てていることから推定される)、そして申立人らの本申立に対し、相手方は日本の裁判所で本件を審理することに同意していることが認められるので、本件はわが国の裁判所に裁判権があり、しかも、住所地たる当裁判所に管轄があると解する。

3  調停の成立と事実調査

昭和五一年六月一四日の当裁判所調停委員会において、当事者間に主文同旨の合意が成立し、その原因事実に争いがないので、当裁判所は、本件に必要な事実調査をなしたところ、上記申立の要旨どおりの事実関係であることが認められた。

4  準拠法

本件においては、申立人真紀については、婚姻中に懐胎された子が父を相手としてその嫡出性を否認し、父子関係不存在の確認を求めるものである。また、申立人静香については、婚姻中に懐胎されたものではないが、公簿に届出られた父(相手方)と母とが、同申立人の出生約一か月前に婚姻届を提出しており、同申立人が婚外子であるか否かが本件で問題となるが、婚外子であるか否かということは、すなわちやがて嫡出子であるか否かが問題となると解される。したがつて、両申立人いずれについても、国際私法上嫡出親子関係の存否に関する事件であるから、本件については法例一七条が適用され、その準拠法は申立人らの出生当時の母の夫の本国法すなわち相手方の本国法である韓国法による。

5  大韓民国民法による本件の適法性

同法八四四条一項、二項には、わが民法七七二条一項、二項と同旨の規定がある。本件申立人真紀については、上記韓国民法により条文上は夫の子としての嫡出性が推定されることになる。同静香については、事実婚の後に法律婚が成立して、婚姻中に出生してはいるが、婚姻成立後二〇〇日に足りないので、事実上の父性推定は可能なるも当然に夫の子としての嫡出性も推定されるかは疑問である。しかし、そもそも上記八四四条による嫡出子の父性推定は胞(懐)胎可能を前提とするものであるから、本件については両申立人とも、前記のとおり、相手方と夕子とがすでに同棲を解消し別居した後に胞(懐)胎されていることが明白であるから、このような場合、前記の嫡出子の父性推定は受けないものというべきである(夕子と相手方とが別居後の昭和四五年一月中旬に一度だけ性関係を持つているが、この時点から申立人静香が妊娠一〇か月の成熟児として出生することはありえない)。そして、このように推定を受けない場合、大韓民国民法の解釈としても、子は、父子関係を否認するため親子関係不存在確認の訴を提起することができるものと解されている。

なお、本件の申立はその手続上申立人両名とも夕子が法定代理人として申立てをなしている。夕子が親権者となるか否かについては、法例二〇条により父の本国法である大韓民国民法によれば、正常な婚姻関係が離婚になつた場合の親権者を定める九〇九条五項の規定は、本件のように胞(懐)胎期間中、夫婦の同棲のなかつたことが外観上明白な場合に胞(懐)胎され、父性の推定を受けずして離婚になる場合には、その前提を欠くため適用がない。そこで、韓国民法にはこの点に関し他に明文の規定がないため、同国民法九〇九条三項「婚姻外の出生子に対して前項の規定による親権を行使する者がないときは、その生母が親権者となる」を準用して、母が親権者となると解すべきである。

6  結論

以上によれば、本件申立は適法であり、その手続については、管轄権のあるわが国の裁判所にその申立をする以上、法廷地法によるべきものと解し、わが国の家事審判法二三条による審判が許されるものと解する。

よつて、申立人らと相手方との間に親子関係がないことを確認する旨の上記合意は真実に合致し正当なものと認められるから、当裁判所は、調停委員の意見を聴き、家事審判法二三条により、主文のとおり審判する。

(家事審判官 杉本孝子)

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